2012年6月21日木曜日

ルー渓谷再訪

水道管に沿って歩く
ここ数日、ニースでは30度を超える真夏日が続いている。コートダジュール地方だけが連日快晴で、それ以外のフランスは全般的に天候不順のようだ。酷暑で海水の温度が急上昇し、既にクラゲが出現したという話も聞いた。ニースの海岸や繁華街は観光客で溢れ返っているので、週末は人混みを離れて山に行きたくなる。先週の日曜日はルー渓谷 (les Gorges du Loup) へ行ってきた。以前にも幾度か出かけているのだが、今回は新しいトレイルを歩いて、西側斜面からクルムの滝 (la Cascade de Courmes)を撮影しようと思ったからだ。県発行のガイドブック(上のリンク)は6時間半の周回コースを薦めているのだが、体力と暑さを考慮して私たちはその約3分の1を歩くことにした。
  ニースから車で40分程北上してブラマフォン (Bramafan) という集落に着いた。僅か数軒の家が建っているだけの小さな村で、その手前にある橋を渡り、山の斜面を少し上ると前述の周回コースにぶつかる。ここから太い水道管に沿って新緑の森の中を南下することになる。道は平らで、所々舗装されていて歩きやすかった。水道管は岩をくり抜いたトンネルを幾度も通っていた。工事用のトンネルなので中は非常に狭く、照明もない。私たちは懐中電灯を持って来なかったので、携帯電話の明かりで急場をしのいだ。どうやらこの水道管はブラマフォンにある泉から飲料用水を下流の村に送るために設置されたようだ。切り立った山の岩の斜面に蛇のように張りついてくねくねと続く水道管の脇を歩いていると、当時の工事の苦労が思いやられた。
バルコニーからの景色
森の中を1時間ほど歩くと突然、視界が開け、見晴らしの良い場所に出た。手で押すとグラグラする貧弱な欄干から恐る恐る下を覗くと、200メートルを超える絶壁である。コンクリートの歩道がちょうどアパートのバルコニーのように岩肌から宙に突き出ている。思わず足がすくんでしまった。目当ての滝が対岸に見えたが、背の高い木立に阻まれて思ったような写真がなかなか撮れない。後でわかったのだが、この地点が一番景色が良かった。ニースから僅か30キロ足らず走れば、このような野性味溢れる自然に触れられるということは驚きである。私たちは恵まれている。あまりに景色が素晴らしかったので、ここでサンドイッチの昼食をとった。他のハイカーが2組通り過ぎて行った。絶景にもかかわらず、不思議と人が少なく閑散としている。私たち二人は鳥の鳴き声や夏風に揺れる木の葉の音をゆっくり楽しむことが出来た。
クルムの滝
  昼食の後、私たちは渓谷の入り口を目指してさらに南下して行った。もう森の中に入ることはなく、視界はずっと開けていた。以前、近くのグルドン (Gourdon) という村にハイキングに出かけた時、この同じ水道管が通る別のトレイルを歩いたことがあったので、その分岐点まで行くつもりだった。しかし、思っていたよりだいぶ距離がありそうだったのと、次第に景色が平坦で単調になってきたので、1時間余り歩いた後、引き返すことにした。
昼食、休憩を含めて4時間半余りのハイキングだった。道は平坦で歩きやすく、人が少なく静かで、しかも息を呑む絶景が楽しめる理想的なコースだった。県外在住の友人を連れて行くには最適な場所だろう。ニース生まれで、年季の入ったハイカーの妻は初めてこのトレイルを歩いた。ニースに近く、よく知られた渓谷なので最初はあまり多くを期待していなかったようだが、すぐにお気に入りのコースのひとつになった。秋の紅葉シーズンにはまた来ようと話し合った。