2015年8月4日火曜日

オート・ザルプ県デボルイ村

オート・ザルプ(Hautes Alpes)県デボルイ(Dévoluy)村は南アルプスの山々に四方を囲まれた人口900人程の小さな農村で、よく整備された小規模のスキー場が二つある。山が自然の障壁となり、長い間孤立状態が続き、農民の生活は非常に貧しいものであったらしい。ヴィクトール・ユーゴのレ・ミゼラブルの中にこんな一節がある 「デボルイの山人を見るがいい。荒れ果てた土地に住み、鶯の鳴き声など50年に一度しか聞くことがない。」しかし、現在のデボルイは青々とした牧草が広大な谷間に広がり、アルプ・マリティム県の幾重にも入り組んだ山間の山村と比べると遥かに豊かに見えた。
ジコン山の斜面から見るデボルイ
デボルイ周辺でのハイキングをここで二つ、ジコン山(Le Gicon 2086m)登山とロバ谷(Vallon d'Âne)周回の様子を短く紹介したい。どちらも比較的易しく(往復5時間、標高差5、600メートル程度)で景色は素晴らしい。デボルイと言えばピック・ド・ビュウール(Pic de Bure 2709m)がよく知られているが、この山の登山は往復8時間、標高差1400メートルもあり、我々の滞在中は日中の気温が30度を超えていたこともあり、今回は断念した。
デボルイから見るジコン山
ジコン山山頂からの眺め
一つ目はジコン山の登山である。ジコン山はデボルイの何処からもよく見え、非常に面白い形をしているのですぐ興味を惹かれた。地元の観光案内所で手に入れたハイキングガイドは殆ど役に立たなかったのでネットで色々調べて準備したのだが、この情報も曖昧で分かりずらく、二、三度道に迷ってしまった。この山の後ろは切り立った崖になっていて、その崖沿いにトレイルがあるので眺めは抜群である。山頂付近は草が腰の高さまで伸びていた。また、セイヨウイラクサ、アザミもあちこちに生えていたので注意しながら歩いた。この日はハエやアブが大量に出ていて苦労したが、虫除けスプレーを持参していたので助かった。夏山のハイキングには虫除けスプレーは必携である。
カラマツ林を抜けて草地に出る。遠くにジコン山も見える。
小さいケルンがあるだけの山頂で昼食をとったが、ひんやりとした北風が気持ちよかった。鷲が数羽、上昇気流に乗ってすぐ近くまで飛んで来た。大きく広げた羽に当たる風音が聞こえるかと思えるほどの近さだった。遠くにエクラン国立公園(Parc National des Ecrins)の山々が見渡せた。この公園には比較的簡単にアクセスできる小さい氷河(Glacier Blanc)があるのだが、今回は時間の都合で行けなかった。
ロバ谷の緩やかな登り
二つ目はロバ谷のハイキングで、これは皆さんに是非お勧めしたい。素晴らしい景観、歩きやすくて分かりやすいトレイルと文句のつけようがない。出発地点は「丸い森(Le bois rond)」と呼ばれるカラマツ林で、同じ場所からピック・ド・ビュウールへ向かう道も伸びている。小1時間林の中を歩くと草地に出る。ここからロバ谷を緩やかに登って行く。途中、羊飼いの犬に出会って吠え立てられた。遠くを羊の群れがゆっくりと移動していた。トレイルはピック・ド・ビュウールの脇を通る。随分と近くに見えるので往復8時間という所要時間が信じられない。しかし、山は絶壁に囲まれているのでここからだとアクセス道が無いようだ。多分、大きく遠回りして別の方向から登らなければならないのだろう。
ロバ谷を登りつめると左に折れて小さい山の稜線(ロバの稜線  La Crête d'Âne)まで行く。そこがこのハイキングの最高地点で、標高が2019メートルとなっている。稜線の反対側に別の谷があり、今度はこの谷を下って駐車場に戻ることになる。この稜線からの眺めは非常に美しい。ここで昼食をとっていると、男女三人組みのハイカーが登ってきた。その日初めて会うハイカーである。女性のハイカーは殆ど水着姿である。暑いとは言え、虫刺されや不慮の転落などを考えるとちょっと無謀だと思った。
ロバの稜線(La Crête d'Âne)からの眺め。左の谷を登って来た。今度は右の谷を下ることになる。
右側の谷を少し下ると、ロバの稜線に奇岩が聳えているのが見えた。不思議と感動的な光景だった。この奇岩の写真はネットでも見たことがあったのですぐにそれだと分かった。朝か夕方の透明な光りがあれば最高なのだがそうもいかない。半時間ほどここにいてこの異様な光景を楽しんだ。
ロバの稜線の奇岩
残りの下りは景色もさほどではなかった。最後に1時間ほど林道を歩いた。あとで妻と話したのだが、下りは別のルートをとってロバ谷に引き返した方が良いと思われる。ともかく、非常に満足できた一日だった。

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